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東京高等裁判所 昭和47年(ラ)784号 決定

抗告人 株式会社伊藤興業

右代表者代表取締役 伊藤英生

主文

本件抗告を却下する。

理由

本件抗告の趣旨および理由は別紙のとおりである。

按ずるに原審裁判官が昭和四七年九月五日の口頭弁論期日において抗告人の支配人である南政雄につき、本訴を遂行すべき法律上の代理権がないとの判断を示して、同人の関与を排し、出頭していた抗告人の代表取締役に弁論を命じて訴訟を進行せしめたことは、原審裁判官の意見書および抗告人の主張するところによってこれを認めることができる。しかして右事実によって考えれば原審裁判官のした右処置は訴訟指揮としてなされた処分であると解するのが相当であり、民訴法四一〇条にいう訴訟手続に関する申立を口頭弁論を経ずして却下した決定ということはできないから、これをもって抗告の対象とすることはできない。もっとも抗告人の主張によれば、抗告人は原審裁判官の右処分に対して異議を述べたが、認められなかったというのであるが、裁判所又は裁判官の訴訟指揮に関する処分に対して当事者が異議を述べうるのはとくに重要な事項に関するものとして法律が定めている一定の場合に限るのであり(例えば民訴法一二九条、二九五条、民訴規則三六条、三七条等)、右異議が却下された場合についても、これを不服として抗告を申立てうべきものではない。しかしてその余の場合については、訴訟指揮が時々刻々になされる事実行為の連続であることにかんがみ、その一々を独立の不服の対象とはしないのであって、たまたまこれについて異議がなされたとしても、それはたんに事実上の職権発動による処分の変更を促す意味を有するに過ぎないものといわなければならない。本件における異議自体も右にいう法律上許されたものに当らないことは前認定から明らかである。しかのみならず、本件は単独裁判官の審理に関するものであり、その点においても法律上本来異議すらも主張しうべき場合には当らないものというべきである。かような本来独立して異議の対象とならない訴訟指揮に関する処分の不服は、本来異議を主張しうべき場合においてした異議に対し却下処分があった場合と同様、あげて終局判決とともに上訴による救済にまつほかはないのであり、これをもって抗告の対象とすることはできない。

されば本件抗告は不適法であって却下を免れない。

よって主文のとおり決定する。

(裁判長判事 浅沼武 判事 加藤宏 園部逸夫)

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